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■サルとして育てよ。ChatGPTと幼児教育。

2023年6月29日

世界中の話題を席巻する対話型AI「ChatGPT」ですが、教育界も最先端テクノロジーに遅れじと、対策に忙しいようです。先日は、文科省から「生成AI(人工知能)」の使い方をめぐる、小中高向けガイドライン案が判明したばかり。夏休みの読書感想文や日記、またコンクールへの作品応募などで、生成AIを使ってものを提出することは不正行為と、すでに予防策を歌っています。
子育てについて考えると、ご家庭では浸透が早いのではないでしょうか。「3歳児に適切な読み聞かせの本を教えて」とか「5歳児の女児に最適なスポーツ教室を教えて」とか、瞬く間に回答してくれます。子育てに精通した、かしこい相談相手のようなものです。
では、幼稚園ではどうでしょう。いますぐに保育現場に実用されるとは考えにくいのですが、これから近い将来、たいせつな「保育の質」について、いくつかの重大な認識をもたらすと考えます。3つあります。

1つ目は子どもの主体性についてです。
対話型AIは先生や親からやらされる勉強ではなく、子ども自身が興味や好奇心を向けたりすることを主体的に追究していくツールとして有効なようです。わかりやすくいえば「自分の関心事に向けて」「問いを立てる力」であり、それをAIと対話しながら掘り下げていくことです。知識の量よりも、自分でやりたい目標や課題を見つけて追究していく力が重要になるでしょう。
2つ目は創造性です。AIは絵も描くし(画像生成)、音楽も作ります(自動音楽生成)が、そうした「結果」ではなく、作り出すための直感や発想、自由なイマジネーションは、AIには回答できません。ある意味で、テクニックや表現が高度化するほどAI化されやすいとしたら、人間の原初としての幼児期に芽生える創造的なプロセスはさらに重視されるものとなるでしょう。
3つ目が身体感覚です。リアルな体験やリアルな空間がないところに、人間の発達はありません。早期にAIにふれさせるより、テクノロジーが究極化するほどに、人間のプリミティブな経験として身体感覚の涵養が重要となります。
少子化が加速し、「個別最適化」が極限化されるほど、体験を個人に閉じるのではなく、好ましい集団とのかかわりによって意図的に作り出していくことでしょう。ともに歌い、ともに走り、またともに考えるのです。

すでに数年後には、AIが人間の知能を凌駕するシンギュラリティが到来するともいわれています。小学校以降の学びや生活の場でそのような社会に生きることになるであろう子どもたちの、「何を」在園期間中に育てていくのか、これまで以上に問われる時代になったと感じています。
「わが子をチャットGPTを使いこなせるためには、小さな頃はサルとして育てる必要があります。(中略)原始的な体験を積むことが大事」(AI研究者 新井紀子教授)なのであれば、だからこそ幼稚園のなすべき役割は大きいと思います。

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