赤色赤光

あなたひとりで苦労しているのではないよ。「奇跡のリンゴ」

2009年2月5日

去年から話題のベストセラー『奇跡のリンゴ』」(幻冬舎:石川拓治著)を読みました。NHKのテレビで火がついた、有名なリンゴ園の農家・木村秋則さんの十数年にわたる苦闘のドキュメントです。  

無農薬、無肥料では絶対不可能とされた、「腐らない」リンゴの栽培。周囲から嘲笑われ、家族を貧困に追いやり、一時は自死まで覚悟した男が達成した奇跡の物語は、もうひとつのサクセスストーリーになっています。  

こういう話を読むと、つい「不屈のチャレンジ精神」とか言ってしまいたくなるのですが、読めばわかりますが、むしろ周囲には「変人」にしか見えない、木村さんのひたむきさ、愚直さが、この「奇跡」をもたらしたことがよくわかります。「自分にはこれしかない」「だから信じるしかない」というぎりぎりの信念が、土も雑草も虫さえも呑みこんでしまう、ある種狂気のような農法を生んだのかもしれません。

「信念」と「信仰」と「信心」は違う、と仏教の何かの本で教わりました。「信念」はひとりよがりになりがちで、「信仰」は自分の主体性を身投げしてしまう。だから、仏教の「信心」こそ主体の極点にふさわしいと。一本一本のリンゴの木に語りかけたという木村さんの「信念」は、たぶんそれまでの我執を捨てた時、「信心」の境地に立って、はじめて実ったものなのでしょう。  

また、この本は「いのち」のありようについても貴重な指摘にあふれています。子どもにかかわる先生や親御さんにもぜひお薦めしたい佳作です。以下は同書より木村さんのコメントです。 「リンゴの木は、リンゴだけで生きているわけではない。周りの自然の中で、生かされている生き物なわけだ。人間もそうなんだよ。人間はそのことを忘れてしまって、自分独りで生きていると思っている」「私もな、自分独りで苦労しているようなつもりでいたけどよ、周りで支えてくれる人がいなかったら、とてもここまでやって来られなかった」

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