赤色赤光

永遠につづくものはない。映画「ベンジャミン・バトン」

2009年2月11日

話題の映画「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」を観ました。80歳の体で生まれた捨て子のベンジャミンが、次第に若返っていく過程で出会う数奇な人生。加齢を重ねていく恋人デイジーとのふたりの人生が映画の時間軸になっていきますが、壮大な「大人の寓話」であり、また人生の時間の変移について考えさせてくれる作品で、3時間、面白く鑑賞できました。

いろいろな切り取り方が可能な映画ですが、私は作品の基層に仏教の深い無常観を感じました。すべてのすがたもかたちも絶えず流動して変化しており、一瞬とも存在の同一性は保持できないという真理。映画の台詞の通り、「永遠につづくもはない」のです。

だから、私たちの人生も加齢も暮らしも必然「無常」とならざるを得ないのですが、逆に現代のさまざまなシステムはその真理を見えにくくしたり、遠ざけたりするように作用しています。誰だって自分の老いや病や死を受け入れたくないものですが、この映画は逆に「若返っていく男」を配置することで、その「見えない真理」を浮き彫りするという手法をとっています。生の彼方に死を置くのではなく、死から生を評価していく試み、ともいえるでしょうか。単なるファンタジーではありません。

主演のブラッド・ピット、ケイト・ブランシェットがすばらしい。20歳から90歳までをCGと特殊メイクで演じる化けぶりもすごい。美男美女ももはや「怪優」です。またテーストは一昔前のデビッド・リンチのマイナー映画みたいでしたが、これを150億かけて作るアメリカ映画の肝っ玉の大きさにも感銘しました。

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