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ノーベル賞学者が書いた幼児教育の本

2015年9月23日

 「幼児教育の経済学」(ダイヤモンド社)はノーベル賞学者ジェームス・J・ヘックマンが書いた本として、話題の一冊ですが、教育図書ではありません。経済学から見れば、幼児教育も投資の対象、未来に対する有効な社会投資として考えますが、その観点が逆に新鮮に映ります。
解説の大阪大の大竹文雄さんがこうまとめています。
「ヘックマン教授の就学前教育の研究は、二つの重要なポイントがある。第一に、就学前教育がその後の人生に大きな影響を与えることを明らかにした事である。第二に、就学前で重要なのは、IQに代表される認知能力だけでなく、忍耐力、協調性、計画力といった非認知能力も重要だということである」 
また、こういった認知能力の発達の有無が、将来の収入、結婚、生活保護の受給、投票行動や健康にまで影響を及ぼすと指摘しています。簡単にいえば、幼児教育の有無が、一生を左右するというのです。
アメリカは、高校を卒業できない、10代で妊娠する、麻薬や犯罪に手を染めるなど、若い世代の問題行動が多い。その時になって公的支援(資金投入)をしてもすでに遅きに逸しており、早期につまり幼児期における教育政策がとくに重要かつ効率的であると、膨大なデータによって実証しています。そこに本書の説得力を感じます。
日本人が幼児教育を語る際に、どうしても個別的な発達に関心が偏りがちです。ひとりひとりも大切だが、その集合がつまり将来の社会を形成します。ミクロな関心だけでは、現状のような格差だけを増長していくことになりかねない。「なぜ幼少期に積極的に教育が必要なのか」「それがないと、将来どうなるのか」という観点から、社会の公平性や効率性を考えるべきでしょう。
但し、帯に脳科学云々と大きく謳うわりには、言及は少ないし、どんな教育が適しているのか、具体的な提示も書かれていません。教育の実践面からは発見は乏しいが、経済学というもっとも「認知的」な観点から、なお「非認知」なるものの重要性を説いたところが本書の白眉といえると思います。
「今後幼少期の教育を充実させていくためには、『幼児教育は大切だ』とやみくもに主張するだけではなく、その投資効果についてデータなどの根拠に基づいた議論を展開していくことが必要不可欠である」
当園でも脳科学実験などを進めていますが、そういったエビデンスが幼児教育おいていかに重要か、大竹さんの解説も謙虚に読み取りたいものです。

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