赤色赤光

「好き」と、幼少期に出会った人

2022年1月6日

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

さて、時の人となった若い天才ピアニスト、反田(そりた)恭平さんのことはすでにご存知のことと思います。自身のCDレーベルや日本初の管弦楽団の株式会社設立など、すでに音楽界の革命児でしたが、昨年は世界最高水準のショパン国際コンクールで堂々2位を受賞して、年末年始はメディアにも頻繁に登場されました、まだ28歳という若さです。

私も以前から彼の才能はもちろん、その考え方に共鳴するところがあったのですが、先日ロングインタビューを読んで得心するものがありました(朝日新聞1月4日)。

28歳の彼の夢が「音楽学校をつくるのこと」とは聞いていましたが、その理由が「このままでは未来の音楽家、子どもたちが育たなくなる」という危機感からとは知りません

でした。根っこには今の音楽教育に対する不納得感があります。

「何より僕は『あなたが小さい時に音楽を始めた、あのときの楽しい感覚を忘れてしまったの?』と言いたい。誰しもが子どもの頃、音を鳴らして喜んでいた、あの感覚を絶対に忘れてはいけない。それを次世代に伝えていくのが、音楽を継承するということだと思うんです」

その根底に反田さんは、既存の音楽業界の、前例が尊ばれ、変化が好まれず、同調圧力が強く、個人の自由が大事にされないという体質への問題提起があるのですが、それはこの業界に限ったことではないでしょう。何もしないでいること、声を上げないことが、結果的に、子どもたちから音楽を奪うと警鐘を鳴らします。私たちも、コロナを言い訳にしないよう肝に銘じたいものです。

そのインタビューで最も印象的だったのは、反田さんの幼少期の記憶でした。

全く音楽とは無縁の家庭に育った反田さんは4歳でピアノを始めたのですが、一番最初に出会った先生が若く、「とにかく褒めてくれる優しい男の先生だった」そうです。

「先生は、まずは好きなように弾いてごらんと言ってくれ、本当に楽しく教えてもらいました。習うのなら、彼じゃないといやだと思った」

何より子どもの好きを尊重してくれる。それを心から褒めてくれる。そういう幼少児の教育の理想があると感じました。天才児は一人にしてならずと思います。そしてその根源には、幸福な幼少時の体験が必要なのだとも思いました。

反田さんと同じ齢の大谷翔平もそうですが、現代のスーパースターは幼少期から目標に向かって努力しています。しかし、そこにはスポーツや芸術にありがちな、激しい稽古とか血の滲むような修練というイメージがありません。いや人一倍練習はしているのですが、彼らはそれが苦しいとは感じないのでしょう。大変な時もあるでしょうけど、それすら楽しんでいる。なせなら、ピアノが、野球が何よりも好きだから。

こういう「好き」と、幼少期に出会った人は強い。一生モノです。そして、そういった「好き」になるために影響を与えた先生(指導者)の存在はじつに偉大だと思うのです。

 

ちなみに、反田さんの座右の銘は、「童心を忘れない」だそうです。

 

今年もよろしくお願いします。

 

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