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2学期は集団のよろこび。「心の野生」を育てるために

2025年9月5日

 7月末に文部科学省が公表した「経年変化分析調査」は、私たち教育関係者にとって驚きの内容でした。全国の小学生の学力がこの10年間で大きく低下しているのです。特に算数や読解力といった基礎的な部分での落ち込みが目立ちます。同時に調査では、子どもたちの勉強時間が減少する一方で、スマートフォンやテレビゲームに費やす時間が増えていることが明らかになりました。つまり、学力の低下は「時間の使い方」と密接に関係しているのです。さらに今回の調査は、子どもたちの幸福感や自己肯定感、そして「人の役に立てている」という貢献感といった非認知能力にも影響が及んでいると指摘しています。学ぶ力だけでなく、生きる力そのものが弱まっているのではないか――そのような危機感を抱かずにはいられません。

 

 

 今回の調査では、SES(社会経済的背景)との関連も詳しく分析されました。保護者の職業や学歴、家庭の学習環境、さらには家にどれくらい本があるかといった蔵書数までが、子どもの学びに影響していることがわかってきたのです。たとえば「蔵書が100冊以上ある家庭の子どもは、それ未満の家庭の子どもよりもスマホ時間は短く、勉強時間が長い」という結果が出ています。家庭の文化環境の質、ということでしょうか。

学力低下の背景には、コロナ禍の影響やICT教育の行き過ぎた普及、先生方の多忙など、さまざまな要因が挙げられますが、専門家たちも「根本的な原因はよくわからない」と述べています。だからこそ、私たちは悪者探しをすることよりも、「では今、幼少期に何をすべきか」という問いを立てる必要があると思います。

 

 千葉大学の藤川大祐教授は「子どもの世界を広げる体験を通して、人と過ごす楽しさや夢中になることを知ることが大切だ」と語っています(朝日新聞)。子どもが五感を総動員し、仲間と一緒に遊びや活動に没頭する――その経験こそが、学力や非認知能力のしなやかな基盤を形づくります。私はこれを「心の野生」を育むことだと考えています。

便利さや効率性が優先され、スマホに象徴されるように何事も個別化する時代の中で、子どもが他者や仲間(集団)とダイナミックに関わり合う経験は乏しくなりがちです。ただ運動やスポーツを増やせばよいということではありません。大切なのは、友だちと共に過ごし、笑い合い、ときにぶつかりながら成長する日々の中にあるのです。

 

 幼稚園の原風景は「集団の生活とあそび」です。2学期を迎えた今こそ、子どもたちが友達や先生と混じり合い、刺激し合い、共に生きることをよろこび合える時間を大切にしたいと思います。その体験の積み重ねが、子どもたちに確かな学びと幸せをもたらし、未来をしなやかに生き抜く力を育んでいくのです。

 

 

 

資料:国立教育政策研究所
https://www.nier.go.jp/24chousakekkahoukoku/kannren_chousa/pdf/24keinen_summary.pdf

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