赤色赤光

運動会。人間の原初を、集団につなぐ。

2010年10月10日

 運動会が終わりました。直前まで雨模様で、開催が危ぶまれたりもしましたが、無事10日に実施することができました。午後スタート、プログラム短縮と異例づくめでしたが、子どもたちは元気いっぱい、すばらしいパフォーマンスを披露してくれました。
最年少の子どもたちの「かけっこ」を見て、ある来賓の先生が、「園長先生、人間の原点を見る思いですね」とおっしゃってくださいました。ヨチヨチ歩きだが、ゴールに向かって懸命に走る姿は、競争とか運動というレベルを超えて、私たちに何かひたむきなものを印象づけてくれます。写真のカットに収まってしまえば、「かわいい」と評されがちな幼児ですが、大地を蹴り、宙を跳び、時間を刻む、その身体は、「人間の原初」を見るような厳かな思いに包まれます。

 シンクロナイズド・スイミングの有名なコーチが「本当のシンクロは、競技者の身体と水が同化することだ」と言っていましたが、私には、運動会という「場」に同期していく子どもたちのたくましい身体を感じていました。あれほど広いグランドで、見たこともないような大勢の人に囲まれながら、しかし容易に、積極的にその場に馴染むことができる。そういうシンクロの感覚です。

 但しその身体とは、子ども個人ではなく、集団の身体です。すべてのパフォーマンスを個人単位に切り取ってみても、今日のような興奮は起きないでしょう。「かけっこ」だって、おそらく一人では走ることはできない。仲間と一緒、友だちと一緒という信頼や連帯、その集団に参加する安心、喜悦が、集団の身体を脈打っていくのだと思います。そこには言語による説明や解釈はない。あるのは、共時的(シンクロ二ティ)な経験の充実、よろこびのみであり、それは日々の活動の積み重ねてでしか養えないものなのです。

 「人間の原初」とは切り取られた個人史ではなく、そのような集団の歴史として記述されるもの。その意味で、幼稚園は「人間の原初」を集団につなぐ、広場なのです。

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