赤色赤光

共同体感覚は、協力することのよろこび(わらまんエッセイ③)

2010年10月29日

(エッセイ②10月27日よりつづく)

パドマ幼稚園の「集団自立」とは、つまり互いの依存関係を尊重しながら、本当の「個」の自立を目指す、というものです。

ひとりでできないことが、みんなとならできる、みんなとできることは、やがてひとりでもできるようになる。その集団が個人にとって好ましいものであれば、さまざまなかかわり(教育活動)を通して、個人は集団の一員として目覚めていく。それがメンバーシップとしての「個」の成長なのです。

 

オーストラリア生まれの有名な心理学者アドラーは、個と集団のかかわりを「共同体感覚」といって、3つの教育目標として掲げています。

ひとつは自己肯定感。「自分っていいな」という感覚です。ふたつ目は仲間への信頼感。「みんなっていいな」。そして3つめが、「みんなの役に立つ」という貢献感です。そのどれもが、子どもの時の環境の影響が大きく、人間の生涯の幸福感の基礎を形作ると言っています。家庭や幼稚園の集団環境がいかに重要か、おわかりいただけるでしょうか。

人間は成熟するに従って、この共同体感覚の対象が自分の仲間内の小さな集団から、より大きな集団へと発展していきます。まず自分だけの世界があって、家族のこと、仲間のこと、職場や地域、さらに日本全体、世界全体へと感覚の意識を拡大していきます。大きな集団とのつながりを感じられるもの。それは、私の言葉で申し上げれば、前半に申し上げた「他力」感覚に近いものです。

いま幼稚園は運動会の準備真っ盛りです。あちらこちらで、クラスを超えた学年どうしの交流や協働が始まっています。例えば、年長児の組体操は、誰一人欠いても「完成」することはありません。一人ひとりが全体の中の「個」の役割に懸命に取り組んでいます。

30人が60人に、60人が120人になる喜び。自分のクラスを基本として、学年という大きな集団と、さらに幼稚園という大きな集団と協働しながら、子どもたちはクラス意識を高め、また集団の中の「個」を養っていくのです。

その意味では、大きな行事をやり遂げた充足感は、子どもたちにとて、ただ課題達成の満足感だけではありません。子どもたちは、その体験を通して、集団にいっそうの愛着と信頼を寄せ、みんなで生きることの喜び=共同体感覚を育んでいるのです。同時にそれは、将来人間として他者を尊重し、仲間と協力しあい、社会に貢献する、そういう人格の基礎基本を養っていくのだと思います。
だから、できる、できないが、問題なのではない。確かにその時、あなたは世界の中のひとりとして輝いていたか、その一点がたいせつなのです。

(了)

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