幼児は右脳を生きている。「奇跡の脳」が教えること。
2009年5月11日
右脳の驚異について興味深いテレビ番組を見ました。5月7日放送のNHKスペシャル「復活した脳の力」です。同じの内容の本「奇跡の脳」もじつに面白い。
ハーバード大の新進気鋭の女性脳科学者として活躍していたジル・ボルティ・テイラー博士は、37歳で脳卒中に倒れ、一時、言語や論理をつかさどる左側の脳機能が停止します。8年間のリハビリを経ていま完全復活を果たした彼女ですが、不思議な内的変化が起きます。バリバリの科学者であった彼女が左側の脳の機能を失い、残された右脳の働きが正面に表れてくると、これまでにない幸福感に包まれたというのです。テレビでもそれを彼女自身が「自分は個体ではなく溶けて液体のようになり、とても平和的で落ち着いた<ニルバーナ(涅槃)>のような境地」と告白していましたが、オカルト的な体験談ではなく、一流の科学者が冷静に客観的に分析した結果であることに大きな関心を持ちました。テレビでは日本の脳科学者が登場して、障害から脳が再生していくプロセスを映像で紹介していましたが、そこでも「右脳中心の、いわば幼児の世界へ回帰していく」と証言していました。右脳がつかさどるのは、感覚や創造の世界といわれます。
テイラー博士の体験から、改めて右脳と幼児教育の関連について考えました。
一般に学校教育とは、論理性を育てる「左脳の教育」ですが、幼児教育にはそれとまったく異なる位相があります。「幼少連携」というと、まるで幼稚園が小学校の予備軍になるかのような印象がありますが、それは違う。幼児教育の本質は、自分が「生きている」という充足感をどう育てるのか、という直観力(本質を見抜く力)を育てること以外にありません。幼児期において重要なのは、目の前の感覚世界を存分にあそぶことであり、その感性なくして将来の論理性も身につきません。幼児教育は人間の基礎基本をつくるといわれる所以なのです。
テイラー博士の数奇な体験は、現代の学校教育システムがあまりに支配的で、私たちの右脳の成育を抑圧しているということを逆説的に証明しているように感じます。左脳ばかり使っているうちに、私たちは生きるエネルギーを見失ってしまったのだろうか、言い方を換えればその以前にあった「生きることの原型」を、幼児教育という非論理の世界において再確認できるかもしれないとも思いました。
そこで注意すべきことは、いま右脳の只中で育つ子どもたちを、左脳的な価値観でとらえないこと。「できるできない」のものさしは右脳の世界には無用なのです。