赤色赤光

声を出せる身体。音楽リズム発表会に寄せて。

2026年2月9日

いよいよ音楽リズム発表会間近となりました。今年度最後の大きな行事として、子どもたちは日々の積み重ねを舞台の上で表現します。とりわけ各学年120余名で歌う場面は、単なるおうたの発表という枠を超え、幼稚園生活のなかで育まれてきた(音読や暗誦の活動も含め)「声」の結晶と言ってもよいかと思います。

合唱はしばしば音程とかリズムといった音楽的な観点で語られがちです。しかし園で大切にしてきたのは、その前段階にある、子どもにとって「声を出すこと」の意味であり、声とは何かという本質を問うことでもあります。

子どもにとって声を出すことは、表現の手段であると同時に、他者とつながり、自分を守るための根源的な行為でもあります。乳幼児期、泣き声や呼びかけが大人の反応を引き出し、「自分の声は届く」という感覚を得ることが、安心して世界に関わるための出発点になります。泣くにしても笑うにしても、ことば以前の声に、誰かが必ず反応してくれるとは大いなる安心の根源でもありましょう。

昨今の教育では「主体性」が重要だといわれ、「自分の意見を持ち、伝える力」が求められます。もちろんその通りなのですが、意見を言葉にする以前に、まずは「声を出せる身体」が育っていること、そしてその声が誰かに受け止められるという実感があることが不可欠ではないでしょうか。日課のなかで歌ったり音読したりしながら、子どもたちは「声を出す」「聞いてもらえる」「また出してみる」という経験を繰り返してきました。この積み重ねが、「自分の声はここにあっていい」「この場にいていい」という安心感を育て、やがて自分の考えを発信する意思へとつながっていきます。むろん、そこには、必ず聞き届けてくれる先生の存在が不可欠です。

また、みんなで声を出す経験は、連帯感や信頼を育む大切な時間でもあります。一人で声を出すのは勇気がいることでも、仲間と一緒に響かせるとき、子どもたちは自然と呼吸を合わせ、互いの存在を感じ取ります。自分の声が集団の中に溶け込み、周りの声と重なっていくとき、「私はここにいる」「私たちは一緒にいる」という感覚が身体的に育まれていきます。これは言葉で教え込むものではなく、日々の生活の中で声を交わし合うなかで培われる信頼の回路です。まさに120名の合唱とは、その共体験そのものではないでしょうか。

声を出すことは、「人に聞いてもらえる状況の気持ちよさ」や「受け入れられる安心感」と深く結びついています。同時に、友だちの声を聞く力も育ちます。自分が声を出しながら周囲の響きを感じ取る経験は、他者を感じ、受け止める感覚へとつながっていきます。こうした体験が積み重なることで、子どもたちは活動に安心して身をゆだね、心を深く沈めていくことができるようになるのです。

発表会での合唱は、完成度の高い音楽を披露することだけが目的ではありません。大勢で声を出し合うその瞬間に、子どもたちは「自分の声がここにある」「仲間と共に響いている」という確かな実感を得ています。それは、これからを生きていく子どもたちにとって、自分を表し、他者と関わっていくための土台となる力です。協働や共創の第一歩といっていいでしょう。

どうぞ当日は、音の美しさだけでなく、声を出すことそのものに宿る安心感や連帯感、そしてそこに至るまでの子どもたちの歩みを感じていただけたらと思います。声を重ねてきた日々が、子どもたち一人ひとりの中に確かな信頼と主体性の芽を育てていることを、皆さまとともに見届けられたらありがたく思います。

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