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拝啓、市長さま。「幼児教育の質」とは何か。

2016年4月25日

新市長になられて初めての新年度を迎えました。新年度の政策の目玉である「幼児教育 5歳児の無償化」は、当園でも大きな反響をもって受け止められています。大阪市在住者であれば、所得に関係なく、幼稚園の教育費が最大30万8千円まで還付される。
これまで幼児に関する政策といえば「待機児童」が専らの重要事でしたので、日本で初めて、「幼児教育の質」に言及された市長の英断に敬意を表する次第です。

4月1日の毎日新聞のインタビューで、市長はこうお答えになっています。
「まずは幼稚園や保育所の認識を変える必要がある。『子どもを預けるだけの場所』ではなく、『幼児教育の場所』として重視すべきだ。就学前にしっかり教育すると、考える力や感じる力、コミュニケーション能力が身につき、子どもの将来の学力や所得を押し上げると実証されている。幼児教育を受ける子が増えれば、貧困や低学力といった大阪の課題解決にもつながるはずだ。都市の力も増すだろう。そうした観点から無償化に踏み切った」

世間では、幼稚園も保育園も一緒くたにされがちです。また、幼児教育というと、やれお受験だとか、英語だとか、スイミングだとか、そんな話題が目立ちます。毎日の生活を通して、人間の基礎基本づくりに精励している現場からすれば、何とも貧しい認識としかいいようがありません。
それが昨年あたりから、教育経済学による新しいエビデンスが指摘されるようになり、幼児教育による財政支出は社会収益率(社会に対するよい影響)が高いと実証されました。市長が仰るように「幼児教育への投資は、将来の学力や所得を押し上げる」のです。 「教育投資」とは意外な着眼でしたが、お陰でようやく「幼児教育の質」に議論が至ったのです。

では、「幼児教育の質」とは何か。
これはこれで喧々囂々、いろいろな議論がありそうです。エビデンスの大本である、アメリカの幼稚園では、修士号以上の教員がじつに手厚い教育を施しており、その結果、高い社会収益率を導き出しました。わが国でも、去年から子ども園が本格化していますが、一概に幼稚園といっても、みんな一緒ではないのです。
もちろん、わが園こそ質が高い、と言いたいのではありません。いえ、そうありたいと日々努力をしているつもりですが、幼児教育の質は、国によっても地域によっても評価は異なります。宗教を根幹とした教育なども、質向上に大きな影響があるでしょう。
いずれにせよ、「幼児教育が大事だという社会のコンセンサスを」(市長)つくりながら、質の高い幼児教育とは何かについての国民的議論が必要となるでしょう。

いまは幼児教育の質向上は世界中の傾向です。すでに欧米先進国は幼児教育の無償化や義務教育の切り下げに着手しています。大阪市の新たな政策が、日本における嚆矢となれば、現場のひとりとして本望といえるでしょう。

▼参考:毎日新聞 論点「5歳児教育費 大阪市無償へ」
http://mainichi.jp/articles/20160401/ddn/004/070/050000c

 

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