赤色赤光

■日本の教育は本当にダメなのか。自己肯定感と仏教。

2021年5月10日

日本の子どもたちの自信のなさは何故なのか、国際的にも学力は高いのに、自己肯定感の低さがしばしば指摘されてきました。ところが、いや、それは、日本人の子どもは失敗しても諦めず、修行のごとくいっそうがんばる動機になっている、と聞けば、どう思われるでしょうか。
最近、「日本の教育はダメじゃない」(ちくま新書)という新書を読みました。台湾大学で教えている日本人准教授と京都大学で教えている英国人准教授の共著ですが、これが実に面白い。二人とも、世界銀行や国連で働く国際派の教育学者です。
この本の特徴は、多くの日本人が思い込む「日本の教育はダメだ」観を国際比較データで問い直していること。勉強に興味がない、学力格差は大きい、いじめ・不登校の多発等々、そのバイアスを一つ一つデータを駆使して反証していきます。日本の教育のレベルの高さや、現場の教師たちのがんばりを公正に評価しているのが気持ちよいです。

とりわけ興味深かったのは、冒頭に挙げた自己肯定感の問題です。そもそも東アジア諸国では一般に欧米の子どもに比べ、自信のある子どもの割合は低く、その一方学力は高い傾向にある。それは、過剰な自信に溺れるのではなく、自己に対し批判的な目を向け続け、(自信を持てないからこそ)いっそうがんばることと関連はないかと、いうのです。
その基底にあるのが、著者たちはキリスト教と仏教の違いがあるといいます。欧米人は、自己は固定的なものであり、「生来の能力」によって規定されると解釈する。つまり、失敗したらそこまでよと、がんばらないのだが、その根底にはキリスト教の「予定説」が強く影響しているのであって、そこが「人生は修行」と考える日本人の仏教観と大きく異なる。失敗をも成長の機会と考える自己の捉え方の違いだと指摘しています。
文中での仏教への言及は少ないので、完全に理解はできないものの、日本人の教育観や学習観、成長観に仏教が根底的な影響を与えているのだとしたら納得できます。幼稚園の教育においても、今何が必要なのか、仏教における「学びのあり方」を再考することが必要ではないでしょうか。
むろん「そこがすごいよ日本人」みたいなお調子本とは違います。安易な現状批判でも肯定でもなく、データで正しく実態を認識した上で、日本の教育についての議論を始めようと呼びかける好著です。
それにしても、優秀な人材(日本人の大人の学力は世界一です)を活かせない経済界が、責任を教育界に求め、政治がそれに追従するというパターンは、教育現場をますます混乱させるだけです。あれこれ制度をいじるだけではなく、冷静に日本の教育の実力を見極めていってほしいものです。

 

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