赤色赤光

チンパンジーは絶望しない。

2011年10月21日

  先日、京都大学の霊長類研究所の所長、松沢哲郎教授が主宰される研究会に参加してきました。チンパンジーの研究で世界的に有名な松澤先生が、自然、人文、社会などの多様な科学を動員して「心の起源とは何か」を探るもので、僭越ながら私から事例報告を担当させていただきました。同じヒト科でありながら、人間とチンパンジーの違いは何か、どこに人間としての心の進化はあるのか、とても関心をそそられる内容でした。

 さて、話はまったく変わりますが、その松沢先生が翻訳の監修をされた映画「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」を観てきました。映画の面白さの紹介は別に機会に譲りますが、その前半で人間とチンパンジーの類似性が克明に描かれており、非常に興味深いものがありました。以下は松澤先生の受け売りですが、そもそも人間とチンパンジーはDNAの配列が98.8%同じであり、だから米国では映画にあるように新薬開発の実験モルモットとして重宝されています(日本や欧州では倫理上の理由から行っていません)。限りなく人間に近いチンパンジーですが、逆に人間にはない能力もあることが分かってきているとか。例えば、直観能力に優れ、モニター画面の1から9までの数字の配列を0.06秒で記憶することなどができるそうです。

 では、チンパンジーになくて、人間にしかない能力は何か。松沢先生は「想像するちからだ」と言います。チンパンジーは、ただ現在を生きているので、過去に学び、未来を展望することはできない。だから、絶望もしないのだ、と。

 「人間は容易に絶望してしまう。でも、絶望するのと同じ能力、その未来を想像するという能力があるから、人間は希望を持てる。どんな過酷な状況の中でも、希望を持てる。人間とは何か。それは想像するちから」(「想像するちから」)
同じ類人猿でありながら、人間はその想像力を駆使して、希望や愛情、勇気、信頼などを育んできたのです。それは、人間形成の基礎基本といってもいいでしょう。

 震災で、多くの人命やさまざまなものが喪われました。今も絶望から立ち直れない人もたくさんいます。しかし、いつか必ず未来を「想像するちから」が生まれはず。と同時に、明日を信じる想像力にあふれた、幼い子どもたちが、一歩一歩人間として育つことを心から願いましょう。

 

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